
Vol.3
家庭での学習方法―2)
「積んどく勉強法」課題の視える化と精神力向上
初めて私の塾にやってきた子供さんに、私はまず、「宿題がたくさんある時、君は好きな教科、嫌いな教科、どちらから先にする?」という質問をします。
「嫌いな教科からする」と答える子はよいのですが、「好きな教科からする」という子は、何事につけ易きに流されがちな、「生活力」の弱いタイプといえます。
そういう、基礎的な生活力がない子供さんに、まず私が指導するのは、「積んどく勉強法」です。
『思考の整理学』で有名な外山滋比古さんの学習方法に「つんどく法」というのがありますが、これとは違います。また、今年の京大入試の2次試験で、積むだけで読まない「積ん読」の意味を問う英作文の問題が出されましたが、これとも違います。
私が子供たちに教える「積んどく勉強法」とは、「やらなければならない宿題を全部、机の上にまず積み上げること」というものです。ただし、嫌いな教科から上に置くというルールがあります。
この「積んどく法」の狙いは、いま与えられている宿題(課題)を「視(み)える化」することであり、嫌なものから早く片付けることを、習慣付けようということです。
日々の生活のなかで、苦手なもの、好きなこと、いろいろとあるだろうけれど、何事も嫌なことから率先して対処すること――。「生活力」を高めるには、嫌なことから逃げない「前向きな精神力(立ち向かう心)」が大事なのだということを、まず身を持って覚えてもらうのが、この勉強法の狙いです。
「逃げてばかりいると、相手(嫌いな教科)はますます遠ざかり、君はいつまでたっても、苦手意識を克服できないよ」と、諭してあげるわけです。
このように指導すると、たいていの子供さんたちは、素直に「つんどく法」を実践してくれます。ただし、ここでもルールがあります。「30分やっても片付かない時は、別の教科に移る」というものです。
苦手な教科に30分間取り組んでも、ほとんど前に進まないというのは、ただぼーっとしているだけの状態になっています。それ以上やっても無駄だから、次の教科にスイッチしようということです。
でも、逃げずに嫌いな教科から取り組んだという実感は脳内に残りますし、視点を切り替えて次の教科をやっているうちに、ふと、さっきわからなかった苦手教科の問題を解くアイデアが浮かんだりします。
ですから、さっきの30分間は、まったく無駄ではなかったのだと、子供たちは少しずつ理解していくようになります。
個人指導塾では、そういった、手も足も出なかった30分間の格闘を振り返り、「ここは、こう考えてみればよかったね」と、問題を解く糸口を提示してやることができます。そうすると子供は、次からは、さらに前向きな心で、苦手教科に取り組むようになります。
まったくの一人で、この「積んどく勉強法」を実践しても、地図もコンパスもなしに荒野をゆくようなものなので、なかなか効果は上がりません。しかし、そこに信頼できる塾講師がサポート役に加わると、「生活力」はぐんぐん向上します。
個人指導塾とは、子供さんたちが、自立学習を身につけるための、サポーターなのだと理解していただけるとよいと思います。このようにして、まず基礎的な「生活力」を立て直すところから、「自立学習」の体得は始まります。
自立学習が身につき、基礎体力ができたら、体内でエンジンが動きだすのがわかります。あとは、志望校合格とか学校での成績アップなどの、明確な「目標」を掲げて走っていけばよいわけです。