
Vol.18
「社会性」について
第1部 近隣との付き合い今昔
私の子ども時代は(昭和のど真ん中で、例としては古くて申し訳ないのですが)、近所のおっちゃん・おばちゃんがもう一人の「父ちゃん」「母ちゃん」でした。悪戯をしていると横からいきなり叱られ、友達をいじめていると「何にしてるの!」とどやされるのがいつものことでした。
また、困ったことが起こるとみんなで助け合い、運動会でもわが子は当然のこと、近所の子どもたちが徒競走などに出ているときは、もう一人の「父ちゃん」「母ちゃん」が精一杯応援してくれました。
子育て支援は当然のごとく近隣の人々が行い、それにより多様な媒体を通して児童生徒の「社会性」が育っていったと思います。
では、昨今の子育てはどうでしょうか。
待機児童解消の施策と子育て支援を柱とした「子ども・子育て支援制度」が2015年から政府の肝いりで発足しました。
このうちの保育園・幼稚園の無償化は今も継続されていますが、もう一つの柱である子育て関連は「子育て相談窓口」の設立に留まっています。
この窓口の活用度もはっきりせず、子育て世代の親の悩みや葛藤は一層深刻さを深めています。
ベネッセ教育研究所の調査でも、28%の母親が子育ての悩みを相談する人が一人もいないと答えています。多い人でも3人程度という答えでした。
言い換えれば、わが子の「社会性」の生育を周りに頼むどころではないのが実情です。
こうした孤立した親の状況が改善しない限り、わが国の少子化に歯止めはかからないように思えます。
都市部ではさらに困難な実態が見えます。
近隣住民や地域での横のつながりが作りにくい時代になっているからです。
例えば、新しい高層マンションなどでは、隣室に誰が住んでいるかも分からない構造になっていますし、勝手に出入りできないように何重にもセキュリティが掛かっています。
皮肉なことに多家族の集合住宅に居住することが、かえって孤独な育児と向き合うことになっています。
そんな分断された社会の中で、どのように子育てを共有し、児童生徒の「社会性」を育むかが今まさに大きな課題になっています。